襟を立てた少年

生きるのが楽しくて楽しくて仕方がない人へ

身体コンプレックス

 

 

僕がある日寝床に入って目をつむっていると、どこからか透き通った綺麗な女性の声が聞こえてきて、「お前の身体の一部分を、お前がのぞんだとおりにしてやろう」と僕に囁いた。

 

僕はしばらく考えてから、「一重まぶたがコンプレックスだから、二重まぶたにして欲しい」とつぶやいてバカバカしくなって眠った。

 

すると翌日、今までにみたことのない自分が鏡の中にいた。瞼には緩やかな弧を描いた線が瞼を二分し、ぱっちりとした二重を形作っていたのだ。

僕は今までにないくらい自分が好きになり、自信を持ち、笑顔の回数が増えた。

 

 

 

しかし、しばらくすると今度は他のところが気になってきた。僕は昔から痩せていて、特に肩周りが弱々しくみえていたのを思い出したのだ。僕は一重まぶたであることを気にしすぎていたせいで他のコンプセックスをさほど気にしていなかったけれど、二重まぶたになったことで他のコンプレックスが際立って見えるようになってしまったのだ。

 

 

僕は二重まぶたのことなんてすっかり気にしなくなって、毎日肩周りのことばかり考えるようになってしまった。ある日僕は決心して、寝る前に目を閉じて、「肩周りと胸板ががっちりしますように。」と唱えた。それから眠くなってさっさと眠った。

 

 

 

翌日はなんだか苦しくて早朝に起きた。サイズの小さな服を無理矢理着せられているような苦しさだった。目を覚ましてみると、思った通り子供服を無理矢理来たようにTシャツが貼っている。苦労して脱ぎ捨ててみると、Tシャツは自分のもので、大きくなったのは自分の身体だった。胸板は逞しく膨らみ、肩周りも筋肉ががっちりと付いて最高にかっこ良かった。鏡で確認してみると、まさに理想の肉体だった。

 

 

 

しかしその幸せな日々も長くは続かず、ひとつコンプレックスを直すと別の箇所が気になっていった。僕はその度にコンプレックスを改善する為に寝る前に祈り、毎日のように理想の身体を直していった。

 

僕の鼻は高くなり、肌は生まれたてのように輝き、歯並びは芸能人のように真っ白で綺麗に揃っていた。声は江口洋介そっくりのイケイケボイス。目はぱっちり二重で、身体も背が高く筋肉がしっかりついていて、モデルのようになった。

 

 

 

これでばっちり最高だぜと思って、久しぶりに彼女をデートに誘い、新宿駅で待ち合わせた。僕が彼女に声をかけて「久しぶり!」と言うと、「すみません...どなたですか?」と言われてしまった。

 

それからしばらく押し問答したけれど、結局信じてもらえずに彼女は逃げるように帰ってしまった。ちなみにその時の僕の写真がこれだ。

 

f:id:andy0330:20140824214403j:plain

 

 

僕は悲しくなってトイレに駆け込み、顔を洗った。鏡の中には、赤の他人の顔が不安げにこちらを見ていたのだ。

 

 

 

 

 

 

おしまい

 

広告を非表示にする