襟を立てた少年

生きるのが楽しくて楽しくて仕方がない人へ

襟を立てた桃太郎


翁と婆は川の近くのボロ屋で静かに毎日を送っていた。翁は資産を運用したり投資をしたりして小遣いを稼ぎ、婆は掃除をしたり洗濯をしたりして、慎ましくも悪くない日常がそこに横たわっていたと言って良い。
余談だが翁の口癖は「ベリーグッドな気分だぜ」で、婆の口癖は「〜なっしー」だった。


葉桜の生い茂る五月の初めに、婆が川で洗濯をしていると巨大な桃がどんぶらこどんぶらこと流れてきた。
ちなみにこの「どんぶらこ」という表現は「桃太郎」という昔話の冒頭で桃が流れてきたときにのみ使える表現であり、それ以外のシーンで使うと話が完全に破綻してしまう構造を有している。例えるならルパン・ザ・ファイヤールパン三世でしか使えず、LALALALOVESONGが婆の好きなロンバケでしか使えないのによく似ている。


まぁとにかく桃がちゃっちゃと流れて来て、婆は寓話のドラマツルギーに則って桃をなんらかの方法で回収し、なんらかの方法でちゃっちゃと家に持ち帰った。


驚いたのは翁である。爺はちょうどNISAを利用して謂わば非課税的に資産をちゃっちゃと運用しているところだったが、婆の姿を見て手元のマウスを机から落っことしてしまった。


婆が両手に有り余るほどの尺の果物を運んで来たのだから驚くのも無理はない。


「それはなんだ」と爺が一応儀礼的に尋ねると「桃ですよ。旬には早いですが頂きましょう。」と婆は機嫌良く言った。

「ワシは株には興味があるが桃には興味がない」と爺が言って一人でウフフと笑った。


そしてそんなこんなで桃から生まれた赤ん坊がナウでヤングな桃太郎である。

桃から生まれたから桃太郎という。

海老から生まれていたら海老蔵になっていたかもしれないし、林檎から生まれていたらそれは女性で、魅惑のバンドマンになっていたかもしれない。


桃太郎はダーウィンもびっくりな速度でちゃっちゃと成長し、一ヶ月もしないうちに立派な青年になった。

爺と婆には子供がいなかったので、青年の何を根拠に「立派」と言えるかはわからなかったが、少なくとも正直で弱いものに優しく、強い青年になったのだ。


まさに桃太郎的な桃太郎だった。唯一の欠点は桃太郎がキムタクに憧れていたのでいつも襟を立てていたことで、そういう所がちょっとだけダサかったが、どんな人間にも欠点はあるから仕方が無い。仕方のないことについて筆者はどうこう言うつもりはないのだ。


襟を立てた桃太郎はある日、鬼ヶ島という某隣国と領地争いをしていてちょっとデリケートな関係にある島にいる鬼たちが、村々から金品財宝を奪ってアメリカンドリームを体現しているという噂を聞いてちょっとイラっとした。

そこで襟を立てた桃太郎は鬼退治に出かけることに相成った。
なぜその辺の村々に金品財宝があったのか、襟を立てた桃太郎はそれが気になって夜しか寝れなかったが、それを気にするのはストーリー的にアカンやつだったし、作者もアカンやつなのは重々承知していたので黙っていることにした。鬼は株でも当てたのかもしれない。


襟を立てた桃太郎が鬼退治に出かける当日、婆は襟を立てた桃太郎にきびだんごを持たせた。

命懸けの旅に出かける子供同然の人間相手に、お金でも保険証でもなくきびだんごを当たり前のように持たせる婆の神経と常識とヒューマニズムとを襟を立てた桃太郎は疑ったが、そんなことよりそのきびだんごは手作りなどではなくコープで届いたやーつだった。


襟を立てた桃太郎はきびだんごを受け取ると、いよいよ鬼退治へと出かけた。




続く

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