襟を立てた少年

生きるのが楽しくて楽しくて仕方がない人へ

レッドヘリングのはなし

 

○○○

 

「今時あんな若者は珍しいよ。」

と父は嬉しそうに言った。なんでも、会社に入った新入社員の男の子が礼儀正しくて仕事もてきぱきこなすのだそうだ。「お前も、ああいうのと付き合えばいいんだよな。」うんうん、と父は勝手に納得している。「わたしには優しいカレがいるもの。」と私は反論する。「ガーディニングが趣味の男なんてちょっとなぁ。」と父は苦々しく言った。

 

 

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「コピーしたものここ置いときますね。」

部下がてきぱきと実務をこなしていく。

「すまない。言い忘れていたんだが、もう一部用意してくれないか。」最近私は物忘れが激しい。娘にも"うわ〜加齢臭やだやだ"などと揶揄われる始末だ。

「あ、一応予備も含めて2部コピーしてあるので。」と新入社員ははにかんだ。こんな出来る社員を持っていいのだろうか、と私は不安になる。

 

 

 

○○○

 

 

「最近お父さんの加齢臭が気になっちゃって。洗濯もの別にしてって言ってるのに参っちゃうよ。」と私が唇をとがらすと、

「お父さんだって悪気はないんだよきっと。」と彼は微笑んだ。彼と付き合って一年になるが、物腰柔らかくてとてもいい人だと思う。父に勝手に恋人を勧められてはたまったものではない。

 

 

■■■

 

「ただいま〜」

完璧に用意された資料のおかげで、得意先との会議は大成功に終わった。家に帰り背広をハンガーにかけ、下着を洗濯物入れにいれる。最近は洗濯ものを一緒にするだけで娘は口もきいてくれなくなる。

 

 

 

☆☆☆

 

上司の期待に応えられているだろうか。文系大学を出て、特に秀でた能力もない僕は、とにかく上司の足を引っ張らないように何とか働いている感じだ。

  

「そういえば今度の日曜、ほんとうに君ん家に行っていいの?」


と彼女の愚痴を遮って言ってみる。愚痴を言い続けるのは本人にとっても体に良くない。

「うんいいよ。お父さんいるかもしれないけど、追い出しちゃうから気にしないで。」と彼女は茶目っ気たっぷりに笑う。

「そんなことしなくていいよ。」と僕は思わず笑う。

「ところで、君の家ではガーデニングとかするのかな。」

と僕は思わず尋ねる。

 

 

 

 

 

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