襟を立てた少年

生きるのが楽しくて楽しくて仕方がない人へ

初めて地元の飲み屋に行ったらもてなしてもらった話

 

家にまっすぐ帰りたくなくて酒を飲むことに決めた。

 

 

 

都会人ゆえに、庄やや魚民が目につくが、それでは味気ないので近所の飲み屋に入った。

「渡る世間は」に出てくるような佇まいの店で、初老の夫婦が切り盛りしている小さな飲み屋だった。

 

チェーン店ではないこういう個人経営の居酒屋は初めて入った。

 

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「こんにちは」などと間抜けなことを言いながら暖簾をくぐる。

「いらっしゃい」と女将が物珍しげに言う。こんな若者はあまり見ないのだろう。

他の客は両方60位のおっさんで、新聞を読んでニュースにあれこれ文句をつけるおっさんと(二重国籍なんてたまったもんじゃないよな、とか言ってた)やたらと身内の病気の愚痴を言うおっさん(兄貴が癌でさ、とか白内障がさ、とか言ってた)の二人がいた。

 

おしぼりとお通しが来る。お通りはキュウリをちくわとハムとめんまだった。

バーで出てくるマリネだのピスタチオだのよりよっぽどまともな飯だと思った。

 

勝手がわからぬので中ジョッキを頼んだ。

それだけだと失礼なので焼き鳥を頼む。「どれがおすすめですか」と他人行儀に聞けば「うちはどれもオススメですけど」と困ったように言われた。そりゃそうだろう。世のばしのぎでぱっぱと答える店員より余程気が利いている。

皮とつくねを軟骨を頼む。軟骨は好物である。

 

病気自慢おっさんが会計を済ませる。2600円ばかりであった。おっさんの手元のジョッキと皿を盗み見て、自分がどのくらい頼んでも大丈夫かを見積もる。

 

そのうちニュースおっさんも帰り、主人と女将と僕のみとなった。

しばらくしてジョッキ2つ目に取り掛かるとニュースでリオオリンピック閉会式の、例の安倍首相の登場のところがやっていた。

女将が持て余して「マリオが日本からブラジルに来たんだろう?次日本でやるんだから逆じゃないのか?」と言った。確かにそうだなと思った。

 

それを皮切りに女将とあれこれ話した。

仕事の話や結婚の話や老後の話だ。女将には6人の子供と7人の孫と2人のひ孫がいると言った。「大したもんだ」と僕は言った。

 

そのうち主人も話に入ってきて話は盛り上がった。そのうちお互いに敬語を捨てて、まるで祖父母の家にいるような感覚に陥った。

そして僕は会社と自宅との往復で、赤の他人との他愛のない話を求めていたということと、こういう妙齢の人にくだを巻きたかったのかもしれぬとふと思った。

 

早く結婚しなとやけに言われた。不思議と嫌な気持ちにならなかった。

23時頃になってお勘定を頼んだ。お通しと、ジョッキ2本と焼き鳥3本で1750円だった。

「酒飲まなくても遊びにおいで」と主人が笑った。「長男なんだからさあ、まあ頑張んなよ」と女将が煙草片手に言った。「また来るよ。おやすみなさい。」と言って店を出た。

 

帰り道はやけに肩が軽かった。こういうことをしたかったんだなと思った。

また来ようと思った。

 

 

おしまい

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