襟を立てた少年

まだ間に合う 世界は素晴らしい

コインランドリーへの憧れ

f:id:andy0330:20180826232135p:image

 

 

コインランドリーへの憧れ

 

皆さんは「憧れの風景」ってありますか?

妄想で思い描いたシチュエーションのようなもの。

僕は学生時代ずっと「学校に武器を持った変質者が現れて、好きな子の前でそれを撃退する」って言うのと「学園祭のライブでギターボーカルをやって拍手喝采を得る」って言う黒歴史レベルの憧れを大切に温めてきたことで有名だけれど、そう言う「憧れの風景」って規模は大小あれど誰しも抱えているものなんじゃないかって思う。

 

 

僕にはここ5年くらい温めている

いくつかの憧れの風景がある。

 

その中でも二大巨頭として僕の脳内に君臨している妄想が「学校帰りの妹をバイクに乗せて走り去る、妹友人は"お兄さんかっこいい!"ってささやき合う」って言うのと「楽器屋さんの電子ピアノを即興で弾き始めて次第に人が集まってきて弾き終わった途端拍手喝采が起こる」と言うものだが、

 

冷静になれば僕はバイクの免許を持っていないし、ピアノは弾いた事すらない。

 

 

つまり詰んでいる。

 

詰んでいるのだが、憧れは消えることがない。

叶わないから、憧れなのかもしれない。

 

 

ちなみに前述の二大巨頭の夢については前者の「妹バイク案」については妹から「恥ずかしいし勘弁してください」と言われたことがあるし、後者の「ピアノ即興案」についてはピアノ経験者の友人から「楽器屋で一曲弾き切る人は見たことないです...」とのことだった。

 

 

もう少し現実的な、達成可能そうな「憧れの風景」はないかな、と思った。

それで一つ思いついた。

 

「コインランドリーで乾燥機待ちで読書をする」だ。

 

これは言語化されていなかったために長年僕の意識に存在しながら、決して表象化してこなかった顕在的な風景の一つだが、いざ言語化してみると達成はたやすそうである。

 

ポイントとしては、コインランドリーである。

自宅の乾燥機ではいけない。それでは風情がない。

 

自宅の乾燥機ならば。

女の子が裸足で乾燥機に寄りかかって座っていて、

その側にはケータイが床に置いてあり、彼女はそのケータイで

ケンカした彼氏からの連絡を待っているーみたいな風景がいい。

 

しかし僕は男性性であるのでこの風景は実現しない。

そしてこの風景は主人公が男だと女々しくて面白くない。

つまり成立しないのだ。

 

 

とにかく。

とにかくコインランドリーで読書をしなければならぬ。

 

僕は早速今溜め込んでいる洗濯物を洗濯してしまい、

水分を吸って重たくなった洗濯かごを抱えて家を出た。

(ちなみに家に乾燥機があるのにも関わらずわざわざ外のコインランドリーに出向いている)

 

 

家から徒歩1分のところにコインランドリーがあるので

個人的には「パジャマ圏内」である。

コインランドリーには洗濯機と乾燥機3台が整然と並んでおり、

出番を静かに待っている風情であった。

 

僕は洗濯物をドラム式の乾燥機に入れ、蓋を閉じてから100円を入れた。

するとなかの洗濯物がぐるぐると回転を始めた。やはり家庭用の乾燥機よりもコインランドリーの大型の乾燥機の方が迫力があって好きだ。

少し極端に言うならタイムマシンのようにも見える。

あるいは宇宙からの物質を転送する装置みたいにも見える。

 

僕は白物家電が嫌いだけれど、ドラム式の乾燥機だけは許してやってもいいかなと思っている。ドラム式乾燥機には風情がある。

 

 

 

洗濯物がぐるぐると回っている様が愉快だったのでその様子をinstagramで撮影してアップして楽しんだ。そして僕は「こんなことをしている場合ではない」と慌てた。

何しろ乾燥の時間は10分である。さっさと本を読み出さなければ乾燥が終わってしまう。

 

 

僕は「ちびまる子ちゃん」の著者であるさくらももこ氏の「たいのおかしら」と言うエッセイ集を取り出して読み始めた。

乾燥機を正面に据えて、パイプ椅子に腰掛けて足を組み、静かに読書に耽る感じである。これこそが、要は、僕が夢見た「憧れの風景」である。夢が一つ叶いましたとさー。と僕は思った。

 

 

夏の夜、22時過ぎ。

Tシャツと短パン、サンダルを引っ掛けて乾燥機の前に座って本を読む。

乾燥機が終わるのを待っている。コインランドリーには自分しかいない。

安っぽい蛍光灯の光が僕と乾燥機を照らす。乾燥機がゴウンゴウンと音を立てて洗濯物を回転させている。洗濯物はオレンジやブルーのバスタオルが含まれていて、それがくるくると回転しているのが綺麗だった。

ゴウンゴウンと音が大きいのに、静かだった。

その他の音は僕がたまにめくる紙のページの音だけで、他の音は全然聞こえなかった。世界にはもう何もなくなっていて、僕と乾燥機しか動いていないのかもしれないと思う。それは一つの世界であった。

 

そこまで妄想がはかどって僕は満足だった。

洗濯物は乾き、(別に家でも乾かせたんだけど)

僕の瑣末な夢が一つかなった。それだけだ。

 

 

夏の夜の一つの情景だった。

 

 

 

おしまい